ロシア・サハリン州の液化天然ガス基地(上)から運搬船に延びるパイプ
=2009年(共同)
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日本企業の排除につながる決定である。ロシアのプーチン大統領が、日本企業が参画する極東サハリン(樺太)の石油・天然ガス開発事業をロシア政府の管理下に置く大統領令に署名した。
三井物産が12・5%、三菱商事が10%を出資する「サハリン2」の資産を、ロシアが新たに設立する運営会社に移管する。日本側の資産が事実上接収される恐れがあり、液化天然ガス(LNG)輸入も止められる可能性がある。
「米国や追随する国の非友好的行動」に対応した措置である。ロシアのウクライナ侵略に対し、欧米と歩調を合わせて制裁を科す日本への報復ということだ。
ウクライナの国土や人権を蹂躙(じゅうりん)する自らの非を棚に上げ、一方的に日本の権益を奪おうとする。到底、許されぬ暴挙である。
日本は権益喪失に備え、官民で代替輸入先の確保に万全を尽くさなくてはならない。欧米でもエネルギーの脱ロシア化が進み、世界のLNG争奪戦は激しい。先進7カ国(G7)と連携を強め、ロシアに対抗することが肝要だ。
新会社への資産移管後も株主は従来と同じ比率で株式を保有する権利があるが、露政府の承認が必要だ。また、露側は移管後もガス供給が停止される恐れはないという。いずれも露政府の判断次第であり、露側が今後、日本に揺さぶりをかけるのは確実だろう。
ここで浮足立つのは禁物だ。対露制裁は民主主義国家としての責務である。露側は日米欧の分断を図りたいのだろうが、その策略にはまるわけにはいかない。
岸田文雄政権は従来、官民で進めるサハリン2から日本勢が撤退しない方針を示してきた。だが国際ルールを無視してウクライナを侵略したのがロシアだ。そこから安定的に資源を調達できると考えるのは無理がある。本来は日本側から撤退を通告すべきだった。
サハリン2は当初、日英の出資で運営されていたが、2006年に露政府の圧力で国営企業が経営権を握った。当時から政治リスクの大きさは明白だったのに、歴代政権は対露依存を続けてきた。
今回、腰の定まらない日本政府の姿勢が露側に見透かされたことを教訓としなければならない。日本が露側の揺さぶりに歩みよる必要は全くない。むしろこれを機にサハリン2からの撤退を改めて検討すべきである。
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2022年7月5日付産経新聞【主張】を転載しています